解説電離圏嵐

電離圏電子密度が急激に増加、あるいは減少する現象を電離圏嵐と呼びます。
いずれも数時間から数日間の短期的な現象ですが、短波帯の電波伝搬を途絶したり、衛星電波の遅延量などが大きく変動したりします。
イオノグラム上では、F2層臨界周波数(foF2)の急激な増減として観測されます。

またTECの変動推移をご覧になると、月中央値からのずれとの比較から増加及び減少の様子を観察することが出来ます。
増加現象、減少現象の両方において、電離圏嵐の原因は太陽の活発な爆発現象です。
そのため電離圏嵐は、太陽活動の活発な極大期に多く発生します。

ここでは電離圏嵐のメカニズムを理解するために、地球をとりまく磁気圏と電離圏 が太陽地球環境としてどのように関係しているか解説します。
その後、電離圏電子密度が増加する場合(ポジティブストーム)と減少する場合 (ネガティブストーム)のメカニズムについてそれぞれ解説します。

磁気圏と電離圏〜太陽地球環境のしくみ

太陽からは太陽風が絶えず吹き出しており、磁場を持つ地球のまわりには、太陽風からまるで 身を守るかのように、磁気圏が取り巻いています。
太陽表面で爆発現象(太陽フレアやそれに伴って発生することのある CME(coronal mass ejection) 等)が発生すると、太陽風が一層強まり、強烈な太陽風が 地球に吹き付けて磁気圏を大きく揺るがします。

このような現象が発生すると、地球の極域には磁気圏から太陽のエネルギーが流れ込みオーロラが発生します。オーロラは高エネルギー電子(KeV)が大気中の酸素や 窒素原子を励起して色とりどりに発光する現象です。
このとき電離圏には強い電流が流れ、オーロラ高度の高層大気は加熱され温度が上がります。強い電流は地球の磁場に垂直に東向きに流れ,地球全体を駆け巡り強い電場が発生します。電場が発生すると電場と地球の磁場双方に垂直な方向にExBドリフトという現象を起こします。

この一連の現象が、ネガティブストームとポジティブストーム両方の原因となるのです。

ポジティブストーム(正相電離圏嵐)のメカニズム

電離圏電子密度が増加する原因は、主に昼の間に電離圏がなんらかの力で高高度に持ち上げられることで起こります。
高高度では電離圏の生成(極端紫外線による電離)は活発に行われるものの、電離圏プラズマの消滅原因となる窒素原子(との化学反応)が少なくなるために消滅が減り、結果的に電子密度が増加してしまうのです。

電離圏を持ち上げる力は2種類あり、一つは太陽表面での爆発現象に伴う地球の極域へのエネルギー注入による電磁気学的な力(EXBドリフト)ともう一つは赤道向きの風による力です。赤道向きの大きな風が起こると、風向きが地球磁場と垂直になるため UxBの力が働き、風と磁場双方に垂直な方向に力が働いて電離圏が持ち上げられるのです。

ネガティブストーム(負相電離圏嵐)のメカニズム

電離圏電子密度が減少する場合も太陽表面の爆発現象に起因します。

太陽風の爆発現象が発生すると、極域から地球の高層大気にエネルギー注入が起こり、極域高層大気が加熱膨張します。膨張により大気が擾乱を起こし、酸素原子と窒素分子の撹拌され、消滅の化学反応が進んで電子密度が減ってしまうのです。

この現象は大規模な大気の擾乱現象を伴うため、ポジティブストームの後に数時間から一日程度遅れて発生することがよくあります。
ポジティブストームが見られず、ネガティブストームのみ発生することもありますし、ポジティブストームのみのときもあります。

一旦ネガティブストームが発生すると、2〜3日続くこともよくあります。
電離圏嵐は季節や磁気嵐発生時刻によって特徴や様子が違っており、大きな磁気嵐が必ずしも 大きな電離圏嵐になるわけではないなど、その予測は一筋縄ではいきません。
ネガティブストームでは一般的に、極域での擾乱大気が低緯度に徐々に広がっていくことから、日本では稚内、国分寺、山川、沖縄の順に嵐の発生が観測されることがよくあります。