解説電離圏の基礎知識

地球大気の上層は、太陽紫外線やX線の吸収などにより、その一部がイオンと電子に分れた状態、つまり、電離した状態になっています。 この領域は「電離圏」あるいは「電離層」と呼ばれます。歴史的には「電離層」と呼ばれてきましたが、近年では「電離圏」と呼ばれることが多くなっているため、本ページでも「電離圏」と記載しています。 本ページでは、電離圏の生成機構やその高度、電離圏変動や現象について、電波伝播障害との関係について説明します。

電離の生成機構

地球大気は、上層ほどその密度が薄くなります。そこへ太陽の紫外線 (エネルギーの高い極端紫外線)が射すと、原子から電子が飛び出してイオンになります(図1)。この作用を電離とよび、電子とイオンから成る気体は電離ガス(プラズマ)とよばれています。電離圏はプラズマ状態の大気が濃くなった領域です。


図 1 電離の生成

電離圏の高度

電離ガスのつくられる割合は、電離されるガスの濃度と電離を引き起こす極端紫外線強度の掛け算になります。高度があまり高いと、太陽からの極端紫外線の強さは充分強いのですが、電離される気体の密度が薄くなります。そのため電離ガスはあまり作られません。逆に、高度が下がりすぎると、電離される気体の密度は高くなりますが、極端紫外線は途中で吸収されてしまい、やはり電離ガスはつくられません。その結果、地上から約200kmの高さに 電離生成のピークができます。電離ガスは拡散して、最終的に300-400km付近に電離圏の最も濃くなる領域が出現します(図X)。実際の電離圏では、電離されるガスの濃度と、到達する極端紫外線のスペクトルによって、D領域(高度70-100㎞)、E領域(100-150㎞)、F1領域(150-200㎞)、F2領域(200㎞以上)という特徴的な高さ構造となっています(図2)。

図 2 電離圏の高さと構造

電離圏の変動と現象

電離圏は、電離源である太陽光の入射強度や背景大気の状態に応じて時間・空間的に変化します。 日本付近では、基本的にどの領域も南にいくほど電子密度が大きくなります。また、1日周期の変動や季節に伴う変動や約11年周期の太陽活動に伴う変動の他、規則的に繰り返される変動もあります。日本国内でよく見られる電離圏現象には、太陽フレアに伴う「デリンジャ現象」や、磁気圏からエネルギー流入に伴う「電離圏嵐」、主に夏の夜に突如発生する「スポラディックE層」などがあります。それぞれの詳細については、以下の解説をご覧下さい。

デリンジャ現象:https://swc.nict.go.jp/knowledge/ionosphere.html#dellinger_phenomenon
「宇宙天気豆知識 No5. 短波通信が突然できなくなるデリンジャ現象」

電離圏嵐:https://swc.nict.go.jp/knowledge/ionosphere.html#ionospheric_storm
「宇宙天気豆知識 No21. 電子密度の大きな変動 電離圏嵐」

スポラディックE層:https://swc.nict.go.jp/knowledge/ionosphere.html#sporadic_e-layer
「宇宙天気豆知識 No10. VHF放送の混信障害を起こすスポラディックE層」

電波伝搬障害との関係

電離圏の状態は電波伝搬と深い関係があるため、電離圏で生じる現象は、電波の異常伝搬や電波吸収、電波遅延などを引き起こすことがあります。太陽フレアや地磁気の乱れに伴う「デリンジャ現象」や「電離圏嵐」、日本の夏に頻発する「スポラディックE」等が発生すると、図3のように、短波を用いた通信・放送に不具合が生じたり(短波通信の障害)、航空航法や衛星測位などの測位精度が劣化したり(航空機の航路変更測位(GPS)の誤差)します。


「宇宙天気豆知識 No10. 電気を帯びた大気-電離圏」