電離圏による衛星通信への影響

電離圏が衛星電波に及ぼす主な影響として、電離圏を通過してくる際の遅延量の他に、 直線偏波が回転するファラデー回転、 振幅に短周期の変動をもたらす電離圏シンチレーションなどがあります。

ファラデー回転

ファラデー回転は、電波の偏波面が回転する現象です。 この現象は地球をとりまく磁力線および電離圏中の電子と電波との相互作用により 直線偏波電波の主成分である右旋、左旋円偏波電波のそれぞれの位相速度が 電離圏中で異なることにより生じます。
ファラデー回転量は単位面積あたりの経路に沿った電子密度が10^18 個/m^2 の場合 、周波数850MHzで最大70°程度、1.6GHzで最大20°程度偏波面が回転します。 回転角度はほぼ周波数の自乗に反比例します。
円偏波を使用した場合には、偏波面が回転しても受信電力の変動は生じませんが、 直線偏波の場合には、受信電力が低下します。

例えば、直線偏波を使用した場合、850MHzで9.3dB、1.6GHzで0.5dBの減衰が起こります。 従って850MHz帯で直線偏波を用いるのは問題がありますが、数GHzより高い周波数では 偏波面の回転量が小さいので、ファラデー回転による信号減衰の影響はほとんどないと 考えられます。

電離圏シンチレーション

電離圏シンチレーションは、電離圏の電気的特性の空間的、時間的な変動に伴うもので、 信号受信強度の短周期の不規則構造として観測されることが多い現象です。
ただし、振幅シンチレーション発生時には振幅だけでなく、位相変動、到来角変動も 伴うと考えられます。 電離圏シンチレーションが起こす被害としては、衛星からの撮像の乱れなどの通信品質の劣化があります。 過去にはまれな例ですが周波数1.5GHz帯、仰角17°で20dBp-pを超える現象も 報告されています[Karasawa, 1985]。

電離圏シンチレーションの発生は太陽活動が盛んな夏期に多く発生し、場所は赤道域に多く 高緯度、中緯度の順に少なくなります。
シンチレーションの程度は周波数の1.5乗に反比例すると言われ、やはり10GHz以上の 衛星通信システムでは、他の対流圏に起因する品質劣化要因に比べて無視出来る程度となります。
また、移動体通信システムに使用されているLバンド(1.5GHz帯)やSバンド(2GHz帯)でも、 太陽活動が特に活発な時期を除けば、中緯度地域の高仰角回線では電離圏シンチレーションの影響は 、ブロッキング(blocking)など他の回線品質劣化要因に比べて影響は少なくなります。


(参考:衛星通信,オーム社) [Karasawa, 1985] Karasawa, Y., Yamada, M.: "Ionospheric Scintillation Measurements at 1.5 GHz in Mid-Latitude Region", Radio Science, Vol. 20. No. 3, pp. 643-651 (May/Jun. 1985)

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