2001年しし座流星雨電波観測

1.はじめに

スポラディックE層はウィンドシアーによってイオンが特定の高度に集中することによって形成される。高い電子密度が保たれるには再結合係数の小さい金属イ オンの存在が不可欠である。この金属イオンの起源は流星であるとされている。そこで、流星の活動度とスポラディックEとの間の関係がしばしば議論されてき た。しかし、その結論は極めて多様で、流星の活動度の特に高くなる流星雨について、ある研究者は両者の活動度に強い相関があるとし、他の研究者は流星活動 度からある時間遅れてスポラディックE活動度が上昇すると結論した。また、二つの間には殆ど相関が見られないとする結論もある。これまでの仕事を見てみる と、殆どの場合、統計的な信頼性に乏しい。一つには、イオノグラムデータが一時間毎あるいは15分毎であったり、極めて大きな不規則性/突発性をもつスポ ラディックEの特性を無視していたりすることに原因がある。
2001年11月のしし座流星群は日本の経度において活動度が極大になると予測されていた。そこで、スポラディックEと流星雨の関係を明らかにするため、 我々は更新されたばかりの新型イオノゾンデを用いて、国内4観測所において1分毎のイオノグラムを102時間にわたって連続取得した。観測ではイオノゾン デ受信機のAGC機能は不使用としてエコー強度を8ビットの分解能で記録した。観測周波数範囲1〜30 MHzの一回の周波数掃引時間は15秒でGPS衛星により同期を取っている。キャンペーン期間中に約24000フレームのイオノグラムが得られ、これをす べて目視により読み取った。その結果、これまでになされた仕事に比べ、統計的な信頼性が格段に向上した。
2.観測結果

図1に流星からのエコーを含むイオノグラムの例を示す。4観測所とも同時に電波を送信しているため、他のイオ ノゾンデからの斜め伝搬エコーが重畳されている。(図は国分寺の例で、沖縄、稚内、山川からの信号が見られる。)正規のE層高度付近に微弱で、横一直線に 見られるエコートレースが流星によるエコーである。明確な一本のエコートレースが得られるには、イオノゾンデの周波数掃引時間である15秒以上にわたって 散乱体がその形を保つ必要があることから、ここで観測されるエコー(流星起源であるとすれば)は所謂オーバーデンスエコーに限られることに注意する必要が ある。
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図1. 流星によると思われるエコートレースの現れたイオノグラム
流星エコーを統計的に取り扱うため、エコーの最高周波数(ft )と見かけ高度(流星飛跡からのフレネル反射の場合、反射点までの距離)を読み取った。11月のスポラディックEの活動度としてはfoEsが5 MHzを越えるのが稀であることを考慮して、エコーのうち最高周波数が5 MHzを超えるものについてのみ読み取った。
図2aは15分間に観測されたエコートレースの数(ft > 5 MHz)である。

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図2a. エコー出現個数

この時点では、必ずしもスポラディックEと流星エコーの区別はできない。横棒A で示された範囲は流星雨の極大が予測されていた時間帯に一致し、全観測所でエ コーの数が上昇している。これに対して、同じく横棒B1、B2で示された時間帯に は稚内でエコーの数が上昇している。同様にCの時間帯には国分寺でエコー数の 増加が見られる。図2bにはエコーの最高周波数を示してある。

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図2b. エコーの最高周波数


明らかにAの時間帯とB1, B2, Cの各時間帯では最高周波数が異なる。また高い周 波数まで伸びたエコートレースはAの時間帯の24時間前と後にもわずかながら観 測されている。次に、エコートレースの見かけ高度を図2cに示す。

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図2c. エコーの見かけ高度


ここでは、Aの時間帯で高度分布が大きくばらついており、B1, B2にもその傾向 が見られるが、Cでは高度100 km付近に集中している。このように流星に関連し たと見られるエコートレースには時間帯により形態にいくつかの違いがある。特 徴的な時間帯について、時間軸を拡大し、エコーの高さと周波数を詳細に見てみ ると、Aの時間帯(図3)では高さ、周波数ともにランダムなのに対して、

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図3. エコーの見かけ高度と最高周波数 (時間帯A)

B1およびCの時間帯(図4)では一定の高さでエコーが持続しており周波数も大 きく変動していないことが分かる。

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図4. エコーの見かけ高度と最高周波数
(時間帯B1(上図);時間帯C(下図))


これらのことから、Aの時間帯に見られたエコーは突発的な流星により一時的な散乱体が形成されたことにより、またB1, B2, Cの時間帯のエコーはスポラディックEの形成によるものであると考えられる。
時間帯Aについては流星雨の極大が予測されていた時間であり、エコー出現のランダム性から個々の流星イベントとの一時的な対応関係が期待される。一対一の 対応付けは難しいが、目視観測と対応させイベント数の時間推移を見ることはできる。図5は全観測所の15分毎の8 MHzを超えるエコー出現総数と肉眼で確認された流星数(日本流星研究会)の比較である。ここで縦軸のZHRは天頂補正後の時間率を表す。
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図5. エコー出現数と目視観測の比較
出現ピークの時間や薄明直前の盛り上がりも含めて、電波(イオノグラム)と光(目視)で見た流星出現数に極めてよい相関のあるこ とが分かる。また、目視観測は薄明時までであるが、電波では日出後もデータが得られ、出現数がピークの時間に対して僅かではあるが非対称になっている。し かし、流星エコーの持続時間には日出効果のあることも報告されおり、ここでの結果が彗星軌道上でのダストの空間分布を反映しているかどうかは結論できな い。
時間帯Aのエコー群が流星起源であることは分かったが、反射が即時的な(spontaneous)スポラディックEの出現によるものか、流星飛跡からのフ レネル反射であるか考察する必要がある。フレネル反射であれば、イオノゾンデ電波と流星飛跡が直交する条件および飛跡と送信アンテナの位置関係からエコー の見かけ高度(この場合は見かけの距離)は大きくばらつき、スポラディックEからの鏡面反射ならば、エコーの見かけ高度はウィンドシアー付近の高度に集中 するはずである(図6)。


図6. 流星飛跡からのフレネル反射



図7は時間帯A(上図)とそれ以外の時間(下図)についてエコートレース出現高度のヒストグラムを示したものである。流星起源と思しきエ コーは100 km以下から250 kmにわたって広く分布しているのに対して、他は殆ど130 km以下に限られている。このことから、流星起源のエコーはフレネル反射であると考えられる。
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図7. エコー見かけ高度の分布


これまでに、流星雨から数時間ないし数日遅れたスポラディックE活動度の上昇が報告されている。それでは、時間帯B1, B2, Cに現れたスポラディックE活動度上昇と流星との関係はどのようなものであるか。スポラディックEのひとつの特性として極めて大きい変動性が挙げられる。 そのため、流星とスポラディックEの関連を議論するときには偶然性を極力排除しなければならない。また、近年、スポラディックEの中期的な変動として、5 ないし7日周期の惑星波動との関連が示唆されている。ここでは、しし座流星群の前後合わせて2ヶ月間のスポラディックEの活動を概観し、その変動性を調 べ、問題の時間帯のスポラディックE活動度上昇を議論する。
図8は2001年11, 12月のfoEsの変化を示したもので、2ヶ月間の中央値(メディアン)と各15分毎の値の差をプラスのみについて示している。しし座流星群に伴う foEsの上昇(11月19日)は流星エコーとスポラディックEを厳密に区別していないことによるもので、既に述べたように流星飛跡からのフレネル反射で ある。図中で下向き三角で示したように周期的なfoEsの上昇が見て取れる。また、一部には2日周期の変動もある。B1, B2, CのスポラディックE活動度はこの上昇の周期に掛かっており、流星とは無関係な周期変動の一部と考えるのが適当である。因みに、12月13, 14日のふたご座流星群でもスポラディックEの変動は殆ど見られない。また、12月26日付近にスポラディックE活動度が上昇しているが、大きな流星群は 報告されておらず、関連する他の現象も見当たらない。
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図8. スポラディックEの2ヶ月間にわたる変動
3.まとめ

2001年11月19日のしし座流星群では日本の経度においてZHRが4000を越える大きな流星雨イベントが 観測された。この前後102時間にわたり国内4ヶ所で1分毎のイオノゾンデ観測を実施し、これまでに例を見ない高い統計的信頼性でイオノグラム上のエコー トレースと流星雨の関係を調べることができた。その結果、流星が直接スポラディックEの活動度に影響を与えることは皆無に近く、イオノグラム上のエコーは 流星飛跡からのフレネル反射であった。また、流星雨イベントから遅れてスポラディックEの活動度が高くなるとする報告も、様々なスポラディックE変動を考 慮すれば、信頼性にかけるものであると結論できる。わずかではあるが、流星飛跡のプラズマがウィンドシアーに捕捉され、スポラディックEのパッチができて いると解釈される例があった。これについては機会をあらためて報告する。

謝辞:貴重な流星の目視観測データは「日本流星研究会」のご好意により引用させて いただきました。

詳しい解析結果は次の論文にも書かれています。

Maruyama, Takashi; Kato, Hisao; Nakamura, Maho; Ionospheric effects of the Leonid meteor shower in November 2001 as observed by rapid run ionosondes. Journal of Geophysical Research, Vol. 108, No. A8, 1324 10.1029/2003JA009831, 19 August 2003


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